公開コンペ 一席入選

適応性豊かな表情のあるビルをつくる
…新しい時代の商業デザインの提案

今までの商業デザイン
…モダニズムとポストモダニズム

いままでの商業建築のデザインは、モダニズムが主流でした。それは内部の機能性の重視と経済合理性を追求した建物で、材料、構法、デザインともに大量生産が可能なため、またたく間に世界中に普及しました。しかしそのどこにでもある一般性と経済性が、商業建築においては、ローコスト・イメージの代名詞ともなっています。
・それに対し、1970年代後半から世界的に広まったポストモダニズムは、西欧の古代ギリシャ、ローマやルネッサンス期の建築様式をデザインモチーフとしたものから出発し、近未来的なものまで徹底してデコラティブ(装飾的)なデザインが特徴的で、商業建築のファサード(外観)やインテリアを中心に、日本でも流行し、一世を風靡したことはご承知のとおりです。

商業デザインの揺籃期の時代
ポストモダニズムは、それまでの無装飾を信条としたモダニズム建築に比べ、装飾性によって人々の目を引くと共に、おりしも日本経済のバブル期に差し掛かり、コストをかけたものがそのまま建物表面に現れたため、そのデザインコストが建物の差別化に繋がり、収益性に跳ね返るとして大いにもてはやされたのです。
しかしながらその建物はデザイン優先のため、機能性に劣り使いづらいものが多く、また特定の用途のイメージが強く、多様な用途への転用が難しいなどの問題点がありました。
また外観の装飾の汚れが目立つために、その清掃や修繕にかかる維持費もばかにならないものでした。バブル崩壊後埃まみれでメンテされないビルの外観が目立ち始め、竣工当時華やかであっただけにその落差の大きさは、ポストモダニズムを採用した商業建築のイメージを悪化させる要因ともなっています。
いま商業建築のデザインは、このような様々な功罪を持つモダニズムとポストモダニズムの間を揺れ動きながら、新しい時代のデザインを求める揺籃期にあるといえるでしょう。

モダニズムとポストモダニズムの
進化形のデザイン

いま我々は高度情報化の社会を迎えつつあります。そしてこうした社会で重要なのは、コンテンツ(内容)だといわれています。
この時代の流れを受けて、モダニズムもその合理性を適応性へと進化させつつあります。
従来の機能性、経済性一辺倒の合理性から、様々なコンテンツに柔軟に対応する適応性へと、発展的に変化しつつあります。
またポストモダニズムも、装飾をただ単に寄せ集めたものから、コンテンツを思う存分伝えるための、豊かな表情をつくりだす表現へと進化しつつあります。
この両者の進化形によって生み出されるものが、適応性豊かで、かつ豊かな表現力を持つ商業デザインです。我々は、そうした新しい時代の商業デザインを提案します。

東京銀座の変わりつつあるデザイン
…ガラスファサード(外観

近年,東京銀座にオープンした新しい商業ビルや,建築中のビルのデザインには,従来とは違うひとつの傾向が見られます。銀座は名実共に日本でも最高級のブランドを持つ物販や飲食店舗が軒を並べるところです。いままでこうした高級店の外装といえば,重厚感のある石張りがほとんどでした。ところがこの数年、ガラスやガラスブロックといった透明感のある素材を利用したデザインが,こうした高級店の外装の主流になりつつあります。
これは物販に限らず高級飲食系の外装デザインにもいえることで,こうした傾向は銀座だけではなく日本各地に広がりつつあります。

なぜ、いまガラス建築か
…高級イメージの変化

なぜ,いま高級商業ビルを中心にガラスのファサードを持つ建築デザインが増えているのでしょうか。
それは従来の石張りのデザインではありきたりで,他との差異をつくり出し難いと言う事もあるでしょう。しかしそれ以上に,高級というものに対するイメージの変化が大きい要素となっています。それは今までの重厚な高級感に変わって,清潔感や透明感,奥の深さなどが求められるようになったからです。
もちろん、ガラスのファサードといっても,事務所ビルのようにただのっぺりとガラスのカーテンウォールで外装を覆ってしまえばいいというものではありません。透明や不透明の素材の選択や組み合わせ,光の反射や干渉,色彩など様々な要素を組み合わせてこそ,はじめて高級のイメージをつくり上げることができるのです。
我々は社会のこうした高級イメージの変化をふまえ、今回、この高級商業ビルのデザインを提案します。

表通りとそれに直交する通り,
二つの顔を持つデザイン

計画地は,いわゆる表通り(東西通り)とそれに直交する通り(南北通り)に面しています。東西通りは日中活発な経済活動の中心となる"都市の顔"を持ち、南北通りはそれとは異なった落ち着きのある雰囲気を持ち、都市を根底から支える"伝統と文化の顔"を持っています。
・この両方の通りに面する建物は,二つの顔を持つデザインを持つと共に,その両者の調和と融合を図るデザインを持つ必要があります。

東西通りのデザイン
明快で、統一した"都市の顔"をつくる
…混沌とした街並みの中で、明快さがシンボル性とクオリティの高さを表現する
日本の都市の繁華街は、街並みを不統一なデザインと看板が埋め尽くし、まさに混沌とした様相を呈しています。建物のファサード(外観)は、看板(テナント)の情報を流すだけで、建物そのもの(すなわちその所有者)の存在は、看板の陰に埋没してしまっています。
そこで建物全体に明快で、統一したイメージを与えることが重要になってきます。過剰で混沌とした看板建築の林立の中で、一つの統一されたイメージを持つ建築は、その明快さからかえって目立ち、シンボリックな印象を与えることになるでしょう。
それはまた、その内面のクオリティの高さ、すなわち所有者の質の高さを表現するものでなければなりません。そしてそのことがその都市を代表する"都市の顔"ともなるのです。

"洋"を感じさせるコンポジションによる外観デザイン
建物の長方形の立面を、方形の幾何学パターンのコンポジションによりデザインした外観は,"都市の顔"としての正統さと"洋"を感じさせるデザインとなります。

建物に透明感,奥行感を与える外装
…カラー+メッシュ+ガラス

外装のマットな彩色の上に,メッシュ+ガラスを重ねることで,建物に透明感,奥行感を与えることができます。

奥"を感じさせる導入路
二層吹抜けの建物への導入路は,ローマのスカラ・レジアのように奥に行くにしたがって狭くなる形状をしており,逆遠近法により,実際の奥行以上に建物の"奥"を感じさせることができます。

様々に変化し、豊かな表情を作りだす
白いガラススクリーン

このガラススクリーンの裏側には照明が仕組まれ、夜にはこの建物の正面全体が、内側から白い光を放って聳え立ちます。また光源の色を変えることによって、様々な色の光へと変化し、建物の表情を変えていくことができます。
この白い光の壁は、建物全体にクオリティの高い、統一したイメージを与えるとともに、その明快で変化に富んだ表情は、ネオンきらめく繁華街にあっても、ひときわ際立つことになるでしょう。
また昼間には、白い半透明の壁が落ち着いた佇まいを見せ、夜とは一転した表情を見せることになります。

重厚感,高級感を感じさせる石の壁
石の壁に穿かれたスリットや,小口を見せるデザイン手法により,石の厚みを強調し,重量感,高級感を感じさせます。

南北通りのデザイン
都市を根底から支える
"伝統と文化の顔"…"和"の表現

日中活発な経済活動の中心となる"都市の顔"である東西通りとは異なり、南北通りは,都市を根底から支える"伝統と文化の顔"を持っています。
日本の伝統と文化といえばそれは"和"の表現がもっともふさわしいでしょう。
"和"の表現のなかには、しっとりとした落ち着きと共に,艶やかさを秘めたデザインや空間が多くあります。本計画では,和の表現のそうしたデザインや空間要素を用いて,南北通りの顔をデザインします。

階段状の屋根
和の勾配屋根を現代的にアレンジしたデザインです。
道路斜線による建物の形態的制限を,有効にデザインとして生かします。

和を代表するデザインモチーフ
…格子

格子は、奥行感と透明感を演出すると共に,その奥にある"何か"を期待をもって感じさせる効果があります。和風の高級店にとって,もっともふさわしいデザインモチーフです。

黒い板張りをイメージさせる外観
二層までの外装は,黒い板張りを連想させる石張りとし,その目地割りは障子の桟のような繊細なパターンを利用します。

二本の光の柱…"ぼんぼり"
白いガラススクリーンで囲まれた階段室が中庭の入口を挟むように立ち,内側に仕組まれた照明により、夜には二本の光の柱が聳え立ちます。
この光の柱は,横桟の繊細なサッシが,和の照明器具である"ぼんぼり"をイメージさせます。

塀越しに見る"奥"の空間
塀で閉じられた中庭は,普段は,塀越しに聞こえる滝の水音と,池を渡るそよ風によって南北通りを通る人々に"奥"の和の空間の存在を感じさせ,その空間に上品さと"期待度(expectancy)"を与え,高級感を演出します。
塀に設けられた格子戸は,営業時間中は開かれます。

露地"をつくり出す結界としての塀
南北通りに面して設けられた黒の板塀は,建物との間に"露地"をつくり出します。1階の店舗へは,この路地を通ってアプローチします。
この塀による結界は,建物および店舗への期待度を高めます。

"和"と"洋"の調和と融合

二つの顔"和"と"洋"を結ぶウェーブ
…オーロラ

東西通り,南北通りに面する二つの顔,"和"と"洋"のデザインを建物中央で結びつけ,その調和と融合を図るデザインとして,ウェーブ状の壁面を用意します。
その曲面は,幾何学パターンのコンポジションの洋のデザインや,和の格子の直線的なデザインに対し,柔らかさと動的な印象を建物全体に与えます。
またパンチングメタルでできた曲面は,光を通し,また反射し,見る角度によって様々な光の干渉を起こし,ライトアップされた夜には,まるで"オーロラ"のように見上げる人々の頭上で輝きます。

オーロラ"を抜けるブリッジによる
アプローチ

上階の店舗の出入りは、"オーロラ"を抜けるブリッジにておこないます。そのアプローチは、日常的ではない空間を一瞬体験させることによって、それから訪れる店舗への期待感を高める効果があります。
また中庭越しに各階の店舗外観が一望でき、連続性を強調した演出や、対比による相乗効果を期待することができます。

天井の高い空間とフォリーを持つ
最上階

5階は、5.0mの階高があり、天井の高い空間による特徴のある店舗構成を可能にします。
また北側の屋上には,フォリー(離れ)が設けられ,個性ある空間演出のできる個室として利用できます。