国際指名コンペ 入選

都市と“馴染む”
…新しくつくられる都市における
“建築”のあり方の提案

既存の多くの都市は、街路のパターンや、水域や緑域、街区の性格とその相互関連、建築の様式、大地の形状など、都市としての歴史的文脈(パターン)をもっている。こうした都市の文脈の中にあっては、都市と建物は形態やデザイン、用途などがほどよく調和し、まさに“建築”は“都市”に“馴染ん”でいるということができる。
しかしながら、まったく新しくつくられる“都市”にあっては、こうした都市としての歴史的文脈がないために、往々にして“建築”は都市との間の“馴染み”がないままにつくられていくことが多い。それは、そこで住まい、働く人々にとっても、決して良好な都市環境の形成につながるとはいいがたい。
計画地は温州市に新しくつくられる行政中心区の一角にある。財務局は、この新しくつくられる都市の中心部を構成する重要な公共建築のひとつである。したがって、その計画にあたっては、それが一部を構成する都市空間のあり方に積極的に関与していかなければならない。
今回のように新しくつくられる都市に計画される“建築”は、都市との関係性を意識し、その文脈(パターン)の一部を構成し、都市と“馴染み”のあるものとしていかなければならない。我々はそのあり方を提案する。

都市のパターンを“建築”の様相に変換
…モーフィングする建築の提案
建築を都市と“馴染み”のあるものとしていくためには、建築を“都市を構成する要素”に組み入れ、そのパターンを建築の様相に変換する必要がある。そこで我々はこの変換のプロセスを見せる建築、すなわち、モーフィング(MORPHING)[形態連続変化]する建築を提案する。

都市の自然環境を代表する水と緑の
モーフィング

都市のパターンを構成する一般的なものは、街路や広場、水域、緑域などである。このうち水と緑を都市の自然環境と景観を構成する重要な要素として捉え、それらと建築とのかかわり方を、モーフィングという形で表現する。
そのひとつである水域は、高層の建物の源から発し、建物の幅を残したまま円弧状の経路をとってもうひとつの建物に至り、その建物を貫通する。それは“建築”から“水”へ、“水”から“建築”へ、というモーフィングのイメージを生み出す。
もうひとつの緑域は、中層の建物から円弧状の経路をとって河川へと至る。それは“建築”から“緑”へ、そして“水”へというモーフィングの関係を示す。また建物から、街路の交差点に向かって同心円状の緑地帯のパターンを形成し、“都市(交差点)”―“緑”―“建築”というモーフィングを表現する。

都市の結節点(node)のモーフィング
…二つの円弧状のパターン

計画地は、この新しくつくられる行政中心における二つの主要街路が交差し、転換する結節点(node)に位置する。街路は都市の動脈である。結節点はこの動脈の流れをスムーズに交差させ、転換させる役割をもつとともに都市の様々な機能を結びつけ、発信する重要な基点となる。
この重要な機能を“建築”へとモーフィングさせる。すなわち交差点に沿ってスムーズな転換の流れを表現する円弧状のパターンを用意し、その一部に建築をあてはめる。一方、結集し発信する基点を受け止める形態として、先の円弧と逆の曲率を持ち、結節点を中心に周囲に広がる円弧状のパターンを用意する。この二つの向かい合う円弧が組み合わさった形として計画建物を構想する。
その結果、モーフィングした建築は、都市の文脈(パターン)の重要な構成要素のひとつをシンボライズすることになる。そしてそれは、この都市空間におけるアイストップ、ランドマークともなる。

二つの向かい合う円弧に囲われた空間
…市民のためのアトリウムの提案

都市・自然・建物そして人が相互に
“馴染む”ことのできる空間

二つの円弧状の形態が交差し、囲われた部分に生まれる空間は、市民のための空間である。そこは、二つの建物が呼応しあい、市民を包み込む形状をしており、そこを訪れる人々が、交流し、調和し、この建物に“馴染む”ことのできる空間である。
この空間は、ガラスのカーテンウォールとトップライトで覆われたアトリウムで、建物の外部と内部とをつなぐ半屋外的な空間であり、外部の都市空間や、自然―水・緑・河川―に接し、人々がこの建物だけではなく、それらとも相互に“馴染む”ことのできる空間として計画する。

動線と情報の基点、憩いと休憩、
交流の空間

このアトリウムの広場は、メインのエントランス空間であり、この建物への導入の基点である。このアトリウムから人々は、この広場を囲む二つの建物内の事務空間へと導かれる。
この広場内には情報インフォメーションセンターが置かれ、建物案内や、様々な情報を市民にサービスする。
またカフェテラスや休憩コーナーが設けられ、憩いと休憩のスペースとして市民に開放される。そこからは、ガラスのカーテンウォール越しに水や緑、川岸の景観などを楽しむことができる。
二つの建物にはさまれたアトリウムは、建物のどこからも見ることができ、はじめてこの建物を訪れた人でも自分の居場所を把握することができる。

都市のダイナミズムを表現する階段状の空中庭園と円筒状の展望スペース
高層の建物の屋上には、階段状の空中庭園を設ける。この空中庭園の下部は、その高さの変化を利用した天井の高い、レストラン、会議室等が配置される。
展望スペースは、この階段状の空中庭園の上に浮かぶ円筒内に設けられる。円筒はガラスのチューブでつくられ、四方を満遍なく眺望することができる。
この円筒は、敷地西側を通る街路に平行に、したがって円弧状の建物を斜めに横断するように配置され、円筒の長手方向が新しくできる市役所方向に対面する。
建物に対し斜めに配置された円筒と階段状の空中庭園は、建物全体に変化と動きを与え、都市全体のダイナミズムを表現する。

水と親しみ、水を背景とする親水広場と野外劇場
護岸の一部を、建物を構成する円弧をモチーフにした曲線によって切り取り、そのレベルを水面ぎりぎりまで下げた親水広場を計画する。ここで人々は河の水とごく身近に触れ合うことができる。
この親水広場の護岸の壁沿いには、パーゴラのある散策路が設けられる。その端部には河を背景とし、パーゴラの一部をステージの屋根とした屋外の円形劇場が設けられ、階段状の観客席は、護岸上部の緑地広場へとつながる。

構造計画
計画建物の構造形態は、西棟および東棟、それに囲まれたアトリウムの三つのブロックに分けて計画する。
円弧状の形態を持つ西棟および東棟は、それぞれ円弧の長辺方向の最大スパンを10mとし、それぞれの円弧の中心に向かう扇形の平面形状を持ったラーメン構造のフレームで構成する。アトリウムは、長辺の対角線に直角方向のトラスで最頂部が結ばれた鳥篭状の構造とする。
東・西棟はRC造、アトリウムはS造とし、西棟とアトリウム、アトリウムと東棟の接触面にエキスパンション・ジョイントを設ける。また東棟頂部の円筒形の展望スペースはS造、西棟の門型開口部の上部の梁はS造で補強をかける。

設備計画
アトリウムの自然空調
アトリウムの外部に面する南北のカーテンウォールの低層部と、最上部に通風用の開口部を設け、アトリウムのエアヴォリュームを利用した対流効果により、夏季でも人々が活動する空間では、自然空調が可能になる。

ピアノ・ノビレによる空調負荷の低減
東・西棟の外観には、横ルーバー状のピアノ・ノビレを設け、太陽光を遮断し、夏季の空調負荷の低減を図る。ピアノ・ノビレにはさまれた横長の開口部は、高層部でも随時開放可能で、事務空間の自然空調を可能にする。

主要仕上げ材料の選定
西棟、東棟の外壁は、公共建築にふさわしい堅牢性と重厚感のある自然石を主材料とし、現代性のあるガラスを組み合わせたデザインとする。
アトリウムは、明るく、開放的な市民の空間にふさわしいガラスのカーテンウォールとトップライトで構成する。
自然石、ガラスともに耐候性、耐久性が高く、メンテナンスの容易な材料である。