柔軟さと優しさのデザイン
…21世紀を支えるテクノロジーと
 コミュニケーションを象徴する建築

コンピューターと通信ネットワークの飛躍的発展により、21世紀の世界は高度情報化社会へと急速に移行しつつある。電信局は,こうした新しいテクノロジーとコミュニケーションのまさに中心に位置しており、21世紀をリードするテクノロジーの象徴ということができる。今我々が目の当たりにしているコンピューターと通信技術という最新のテクノロジーは、人類史上、言葉を書き留める技術や産業革命の力を生み出す技術にも匹敵する、最も奥の深いテクノロジーのひとつである。
テクノロジーを象徴するデザインというと、かつては流線型やマシーンをイメージするものがほとんどであった。速度と力、これが未来を切り拓く20世紀のテクノロジーの象徴であった。しかしいま、電信局が象徴しようとする最新テクノロジーであるコンピューターや通信技術は不可視の領域に入り込んでいこうとしている。テクノロジーが見えなくなったとき、そのテクノロジーが支える社会や環境の中には、柔軟さと優しさだけが眼に見えるものとして残ることになる。電信局に求められるデザインは、無機的な、流線型やマシーンのイメージといった古びた20世紀の産物ではなく、テクノロジーの本質を表現するものでなくてはならない。速度や力に翻弄されない、人間社会や環境を支える真のテクノロジーの姿を象徴するものであり、柔軟さと優しさを表現するものでなければならない。電信局の建築は,これからの未来社会を、21世紀そのものを見据え、支えていく建築でなければならない。
テクノロジーとコミュニケーションの発展が速度を増し、そのテクノロジーの姿が眼に見えなくなると、相対的に我々は速度をゆるめることが可能となり、我々の眼の前には,20世紀の速度と力に席巻されたデザインの影に隠れて見過ごされてきた様々なものが現れてくる。それは人間社会や環境に対する柔軟さと優しさに満ちた眼差しであり、文化や歴史など土地の記憶に対する配慮である。そのプロセスは、その社会や文化の成熟のプロセスといってもいい。これからの未来社会を見据え、支えていく電信局の建築は、こうした成熟の眼差しをデザイン化したものでなければならない。