日本建築家協会現代日本の建築家100
ー選出ー

都市の中の寺院
近年大都市周辺では、お盆やお彼岸という習俗化した行事でさえ行わない人々が増えている。にもかかわらず、大多数の人々が死する時には仏教へと回帰する。日頃どのように宗教に無縁、無関心であっても、死する時には仏式で葬られ、仏教寺院を死後の安らぎの場所とする。これはむしろ、長い歴史の中で仏教があまりにも深く浸透し、日常ではその存在すら忘れるほどになっているからではないか、さらに、死する時には仏教に回帰するように社会全体がルール化されているようにも見える。ところが、核家族化が進むにつれ、このルールが十分機能しなくなってきた。都市における寺院の最も重要な課題は、人々をいかにして仏教回帰への道に導くか、ということにあろう。
仏教空間を創造しようとするうえで、〈荘厳〉された空間は究極的目標のひとつである。荘厳とは仏像、仏堂などを飾ることを指すことが多いが、本来は涅槃の空間的現象であり、悟りと同時に出現する空間である。すなわち、現代の都市寺院を考えるとき、荘厳された空間とは、仏像や仏堂だけにとどまらず、境内地まで一体となった場所そのものとして捉るべきであり、仏教回帰への道を彷彿とさせるような光彩に満ちた空間でなければならない。
この寺院の本堂は、山を象徴した黒い御影石の基壇の上にある。伝統的な入母屋屋根の厳粛な外観を持っているが、周囲を曼荼羅模様の格子で囲むことにより、従来の小屋組みにある闇を払拭し、暖かい光りが堂内に満ち溢れる、まったく新しい荘厳な世界を表現している。